POSTED Tuesday, May 22, 2018 13:18
No Tittle
POSTED Thursday, May 10, 2018 18:00
ただいま
POSTED Friday, January 26, 2018 22:08
ネパール旅行記⑤
- そうか。あれがきっかけだったんだっけ。
カトマンドゥの東約12kmに位置する古都バクタプル。ダルバール広場の裏手にある旧王の沐浴場を前に、いつかネパールへ来ようと決めた日のことを思い出していた。日本のニュース映像で紹介された、誰かの携帯電話で撮影された動画。そこには突然の大きな地震に、この沐浴場で不安そうに身を寄せ合う人々が映っていた。2年前にその映像を見たときには、そこがどんな場所なのか、なんていう名前の街なのかも分からなかったし、正直この場所に立つまではその映像を見たことさえ忘れていたのだが、実は自分の旅がここから始まっていたこと、そしてそこに偶然たどり着いたことがとても不思議なことのように思えた。
(↑旧王の沐浴場。最初はすげえデジャヴだなと思いました。)
(↑宿のバルコニーからの朝焼け)
ナガルコットの朝焼けはチサパニほど澄んだ空ではなかったが、谷にかかった霧の向こうに現れた太陽は相変わらず暴力的なほど暖かく、毛布にくるまってその登場を待ちわびていた自分の顔や、レンガ造りのホテルたちをオレンジ色に照らしていた。そこかしこの宿のバルコニーや屋上では、肌の色や瞳の色の異なる多くの旅人たちが、同じように日の出を眺めていた。隣の宿の男性と目が合うと、ペコリと小さく頭を下げる。ただ新しい一日が始まるだけなんだけど、なんでもないわけじゃないんだよな、なんて思いながら荷物をまとめて少し伸びた髭を剃ると、朝食を摂りに一階に降りた。
この男との二人旅も今日でおしまいだなあ。ずいぶんと酒付き合わせちゃって悪かったかな。なんてテーブルの向かいに座ったシンバの顔を盗み見ながら朝食を終えて、宿を出たところにあった小さな高台から麓を眺めると、丘を這い回る大蛇のように曲がりくねった道を、見覚えのある小豆色の車が登ってくるのが見えた。
「迎えの車だ」
そう言ってシンバが白い歯を見せる。これで俺の初トレッキングもおしまい。朝陽に照らされたヒマラヤ山脈を眺めながら、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むと、いつかまた来たいなあ、と心から思った。世界は広くて、どうしたって観てみたい景色を全部観て回れるほど人生は長くない。だからもっともっと旅に出よう。行ったことのない場所に行ってみよう。再訪したい街はたくさんあるけれど、きっと次はまた違うところに向かうんだ。
(↑ナガルコットの街並み)
(↑バクタプルのチョーク - 小径)
ナガルコットからカトゥマンドゥへの道中、バクタプルという古都に立ち寄る。かつて全ネパールの首都であったこの街は、現在でもネパールの文化的首都であり、北部と南部の神話や哲学、歴史、芸術、建築そして文化を融合した、ネワール文化の生きた遺産だ。カトゥマンドゥの雑踏には混乱と無秩序、そして爆発的な活気があるのだが、バクタプルではより宗教観の強い、落ち着いた時間の流れを感じることができる。旧王宮のあるダルバール広場とその南にあるトゥマディー広場には多くの寺院があるが、ここにも地震で倒壊してしまった寺院や、半壊して立ち入り禁止になっている建物が多くある。
観光客で賑わう広場を歩いていると、多くの学生たちとすれ違った。近くに大学があるようで、王政の廃止や災害など、混乱の続くこの国の未来を彼らはどう見据えているのだろう。広場のすぐ外には仮設住居のテント群があり、バケツの水で身体を洗う人たちと、そのすぐそばを行き交う学生、そして世界中から来ている旅行者たちを眺めながら思った。仮想現実世界の発展がいくら地理的・物理的距離を縮めたように錯覚させても、人間の社会は甚だ未成熟で、人と人の間にはたくさんの超えなければいけない壁がある。
(↑バクタプルのダルバール広場)
(↑修復作業中の遺構)
(↑旧王宮の入り口にかけられている木彫り)
旧王宮の入り口には、それは見事なネワール彫刻の木彫りがある。あまりの精緻さに口を開けて眺めていると、シンバがこの彫刻にまつわる逸話を話してくれた。
「これはネパールの歴史上最も優れた木彫り職人の手によるものなんだが、当時のネパールには複数の王国があったんだ。この天才彫刻師を独占して、他国に渡らせるべきではないと考えた当時の王は、彼がこの木彫りを完成させた後に、その両腕を切断したんだそうだ。」
「まじかよ。ひっでえことするなあその王様。」
あまり深く考えずにそう応えたのだが、シンバの解釈は違ったようだ。
「その職人が不幸だったかどうかは一概には判断できないぞ。その職人は、両の腕を切り落とされる代償として、生涯にわたり本人やその家族が厚遇され、何不自由ない暮らしを約束されたそうだ。」
「あー。。」
ただ生き延びられること自体に今より遥かに価値があった時代だ。そうですよねぇ。。
「でもさ、そんでも腕ちょん切られんのはやっぱ嫌なんじゃねーのかな?」
なんて話をしながら散策を続け、タチュバル広場へと続くチョーク(小径)をしばらく行くと、何かの死体を引きずってできたような血痕に出くわした。その先では大型の動物がマシェーテで首を落とされている。神事として神に動物を捧げる、アニマル・サクリファイスだ。あれ牛じゃねえの?ネパールじゃ牛は神聖な動物じゃなかったっけ?
「あれは何の動物?牛?」
「あれはバッファローだ。ネパールでは牛を殺すのは犯罪だからな。」
「ああん、そうか(でもバッファローはいいのか)。で、儀式が終わった後はどうするの?食べるの?」
「そうだよ。儀式の後で皆で分け合って食べる。」
ハンバーガーのパテも、コンビニのチキンも、豚しゃぶサラダとかも普通に全部こうやって動物を殺して作ってるわけだもんなあ。マシェーテが首に入る瞬間は確かにひやっとするけど、肉を食べるんなら見れなきゃ駄目なんだろう。通り過ぎるときにはバーナーが取り出され、一部が焼かれ始めたのだが、その匂いはやっぱりって言うのかな、旨そうな匂いだった。
!!!!!!!!!!!!!!!!!! 次の写真は動物の死体が写っています。 !!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!! 閲覧注意です。 !!!!!!!!!!!!!!!!!!
(↑アニマル・サクリファイス)
(↑バクタプル名物、ズーズー・ダウ。ヨーグルトの王様らしい。)
2日ぶりのカトマンドゥはやっぱり混沌として、活気に溢れている。上水道を埋設する工事で至る所で道路が掘り返されているため、ただでさえ狭い路地がことさらにごった返している。シンバからホテルに預けていたラップトップなどを受け取り、この3日間のお礼を伝える。彼の人生にその後、幸多きことを祈りながら。久しぶりに部屋に戻って暖かいシャワーを浴びると、時計の針は午後4時を指していた。思ったより早く帰ってこれたなあ。今回の旅も残すところあと一日か。何をして過ごそう?なんて考えるまでもないよな、エメリヒの言ってたゲストハウスに行ってみよう。
モンキーモンキー(仮)までは歩いて10分ほどだった。ちっか。たどり着いてみるとそこはいかにもヒッピー系バックバッカーたちが好きそうな、DIYとアートに溢れたゲストハウス。外壁は明るいピンクがかったオレンジ色のペンキで塗られ、色とりどりのグラフィティが描かれている。明らかにローカルとは雰囲気が違うのだが、それでも悪目立ちしているというよりは、どこか旅人には嬉しい類の賑やかさだ。彼らの持つ、自然や、そもそも自分と異なるものに対する敬意みたいなものが感じ取れる。
「こんにちは。エメリヒはいるかい?」
入り口近くの、タープの下に置かれたソファに座っている女性に尋ねてみた。
「ああ、いるわよ。確かミーティングエリアにいるはず」
「ありがとう。それって上?」
「3階よ」
「どうも。お邪魔するね」
建物に入ってすぐの階段を上ると、2階の通路の壁全体をペイントするべく、男女2人組がああでもないこうでもないと下書きの構想を練っていた。
「ごめんよー通るよー」
「どうぞどうぞ」
「こりゃあ大作だね」
「ふふふ、いいでしょ?」
なんて軽口を叩きながら3階に上ると、左手にキッチン、正面奥には冷蔵庫を背にした小さなバーテーブルがあり、手前にある15畳ほどのスペースには、数名のバックパッカーたちがめいめい寝転がったりテレビを観たりしている。右手にはバルコニーに続くガラス戸があり、その向こうにはこちらに背を向けて座っているエメリヒと、大きな木製のテーブルを挟んでその正面に座る3名の男女が見えた。いたいた。と、まずはまっしぐらにバーテーブルに行き、スタッフらしき女性に声をかける。
「ビール欲しいんだけど、ここで買えるの?」
「そうよ。種類は何がいい?」
「なんでもいいけど。。エベレストかな」
「はい、200ルピーね」
「ありがと!」
(↑これを見てカトマンドゥに戻って来たな、と思いました。)
大瓶を片手にバルコニーに出て、「エメリヒ」と声をかけると、
「来たんだね!」と、例の人懐こそうな笑顔で迎えてくれた。
初対面の男女のうち一人は20代半ばのベルギー人男性、ルーカス(仮名)。彼は現在インドに住んでいて、ヨガの先生をしながら瞑想の勉強をしているとのこと。長めの休みをとったのでネパールまで足を伸ばして来たそうで、そろそろひと月ほどここにいるらしい。もう一人は同じく20代のアイスランド人女性エミリア(仮名)。彼女も特にいつまでと決めた旅ではないらしく、最近は宿泊費が賄えなくなって来たため、ゲストハウスの厨房で手伝いをしながら滞在している。そして最後の一人は台湾から来たトム(仮名)で、彼は知人の友人の結婚式に出席する為に一団とともにネパールに来たものの、結婚式の前日にその知人と大喧嘩をした挙句、「お前はもう結婚式に連れていかない」と言われ突然のネパール一人旅になってしまったそうだ。
「まあいいんだよ。あのままあいつらといるよりずっと楽しいから」
なんて言っていた。すげえ話だなそれ笑
空が茜色に染まっても、そのまま陽がとっぷりと暮れるまで4人で語り続けた。現代版ヒッピーである彼らの話は本当に刺激的で、できればその全てをノートにとっておきたかった。西洋の学生の中には大学を卒業後、1年から2年をかけて自分の足で世界中を見て回り、その後に就職をする人たちが結構いるんだけど、日本でもそういう道があればなあと、つい思うのだった。今回出会った彼らは大学卒業後の旅ではなかったけれど、この手合いは相変わらず読書家で知識が豊富。そして自由な発想を追求している人たちだった。著名な本が会話の引き合いに出されるたび、タケシも読んだかい、いや読んでないよ、と答える羽目になる。
こりゃあ最終日はここに泊まるしかねえな、と思いながら宿への帰路についたのだった。(つづく)
(↑バルコニーの手すり。「仕事はポケットを満たしてくれるけど、旅は魂を満たしてくれる」って書いてある。:-))
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