POSTED Tuesday, November 23, 2010 23:29
エジプト旅行記⑥ 10月28日 前編
朝6時に目覚めると、空が真っ白になっていた。夜空を覆い尽くしていた無数の星たちはとうにその姿を隠し、昼まで寝過ごしてしまったんじゃないかと思えるほどだったが、しかし不思議な純白の空を360度見回してみても、まだどこにも太陽は見えなかった。
すげえなー。太陽出てなくてもこんなに明るいんだ、なんて思いながらモソモソと寝袋から出て、シュラフの上にかけてあった毛布を今度は体に巻き付けて、ぼんやりと赤く染まり始めた地平線を、ふたたび独り占め出来るところまで歩いて行くと、その寒さに歯がかたかたと鳴った。
腰をおろした石灰岩があまりにも冷たかったので、毛布の端を尻の下に敷き、どんどんと赤くなっていくその中心をしばらくじっと見つめていると、全ての静寂を切り裂くようにして、それはそれは暖かい光が差し込んだ。
その瞬間、ああ、全ての生命が歓喜するんだろうなこれは、と数万年待ち焦がれたような気分になった。太陽が出ている。嬉しい。暖かい。物体に感じる想いじゃないなあこれ。間違いなく、星は生きている。
すげえなー。太陽出てなくてもこんなに明るいんだ、なんて思いながらモソモソと寝袋から出て、シュラフの上にかけてあった毛布を今度は体に巻き付けて、ぼんやりと赤く染まり始めた地平線を、ふたたび独り占め出来るところまで歩いて行くと、その寒さに歯がかたかたと鳴った。
腰をおろした石灰岩があまりにも冷たかったので、毛布の端を尻の下に敷き、どんどんと赤くなっていくその中心をしばらくじっと見つめていると、全ての静寂を切り裂くようにして、それはそれは暖かい光が差し込んだ。
その瞬間、ああ、全ての生命が歓喜するんだろうなこれは、と数万年待ち焦がれたような気分になった。太陽が出ている。嬉しい。暖かい。物体に感じる想いじゃないなあこれ。間違いなく、星は生きている。
この来光を見たとき、心が突然迷子になってしまった。その後数日間、一体俺はこの人生で何をやっていくんだろう、と考え続けることになる。
背後では起きだした旅人たちがドライバーの入れた紅茶をすすっていた。もう目を逸らしてもいいかと思えるまでその場で来光を眺めた後、再び彼らに加わった。
背後では起きだした旅人たちがドライバーの入れた紅茶をすすっていた。もう目を逸らしてもいいかと思えるまでその場で来光を眺めた後、再び彼らに加わった。
チキン・マッシュルームと呼ばれる奇岩。もともと海底だったサハラに石灰岩が堆積し、長い年月をかけ風で削られて、この姿になった。
その後は、来た道を逆へ辿ってカイロへ戻る。バハリヤでベルギー人2人組と別れ、ミスターアフメッドにお礼を言い、再びオアシスのバス停からカイロ行きのバスに乗る。隣にはパキスタン人3人組の旦那、アミンが座った。
「やあ、これ来た時のバスより全然いいバスだよ!快適だなあ!」
アミン「僕たちが乗って来たバスはこれよりもっと綺麗だったよ(笑)。」
その後は、来た道を逆へ辿ってカイロへ戻る。バハリヤでベルギー人2人組と別れ、ミスターアフメッドにお礼を言い、再びオアシスのバス停からカイロ行きのバスに乗る。隣にはパキスタン人3人組の旦那、アミンが座った。
「やあ、これ来た時のバスより全然いいバスだよ!快適だなあ!」
アミン「僕たちが乗って来たバスはこれよりもっと綺麗だったよ(笑)。」
バスの中から見えるバハリアの街。
ときおり少し疲れたような顔を見せるアミンと、砂漠や、アフリカのこと、中近東やアジアについて、そして貧しい国のことをずいぶんと語り合った。恵まれている側にいてさえはっきりと感じられるが、この世界はずいぶんと不公平だ。砂漠からオアシスへ戻る途中にあった検問の警備兵が、俺たちのジープの無口なドライバーに金をたかっていたのを思い出した。クンは、あの警備兵の月給はだいたい40ポンド(760円)ぐらいだろうと言っていた。
砂漠を走る事数時間、行きに降りるのを躊躇したサービスエリアに再びバスが立ち寄ったとき、最初に感じた不安なんてもうなんでもなくなっている自分に気がついた。日本人パッカーを珍しそうに眺めてくるムスリムの視線も気にならなくなった。気にならなくなったせいか、視線はもうそれほど飛んでこなくなった。
込み合った売店に立ち寄ると、ナッツをキャラメルで固めた菓子が目に入った。うわー美味そうだなこれ!
「これいくら?」
店員「1ポンド。」
1ポンド硬貨と1ポンド札を共に切らしていたので、嫌な予感はしつつも5ポンド紙幣を手渡す。
「お釣りある?4ポンド。」
店員「ない。」
ないわけないだろー(笑)。でもまあ先に5ポンド紙幣を渡した俺が阿呆なのだ。ないと言い切ったきり5ポンド紙幣を返すそぶりもなく、ごった返したカウンターに群がる(エジプトでは列は滅多にできない)次の客の相手をしようとしている店員に、
「じゃあ残り4ポンド分は、他のお菓子を持って行くよ。それはいいよね?」
と尋ねると、あろうことかその返事はたった一言
店員「だめだ。」
だった。
カッッチーーン。いや、確かに世界は不公平だろうぜ。そして4ポンドを俺からむしり取るのは別に難しい事でもなんでもないさ。だって俺もともと限界まで値切ろうなんて考えてないもん。だけどな、今の話は、数学的にも、論理的にも、全くおかしいだろ!ジャンとパピルス屋のような、なんかこう、あんだろうそういうのがああ!!
「なんだとこの野郎!?NOっつったか!?」
こんのやろー返答次第じゃただじゃおかねえからな!するとようやく表情が浮かんだ店員が
店員「あ、いや。YES。」
と許可してくれたので、肩を震わせながらずんずんとお菓子コーナーに戻り、行きに食べて美味しかったウェハース(ちゃっかり)その他のお菓子をわしづかみにして、奴の顔にぐいっと差し出した。
「これとこれ持って帰るからな!」
と言い捨てると、しぶしぶコクリと頷く奴を背に、お菓子ウォーズは終結した。フー。そうだった。エジプトってこうだったこうだった。
そんなこともあったせいで、ギザ駅まで行くはずのバスが、渋滞がひどいからもうこれ以上走りたくないという至極真っ当な理由で、ギザよりずいぶん手前の人でごった返したバス停で停まったときには、もう特に驚きもしなかった。
「えー、てかどうしたらいいんだよ?」
運転手「知らん!メトロで行け!メトロじゃ!」
と前方を指差していたので
「あっちに行けばメトロあるの?」
運転手「メトロじゃ!」
何を聞いても「メトロじゃ!」しか言わん運転手にこれ以上聞いても無駄だと確信し、アミンと奥さん、その友人に丁寧に別れを告げ、すたすたと一人で歩き出すと、あ、一人旅再開だ、と気付くのだった。
駅を見つけるのに多少手間取ったものの、メトロ自体はもう乗り方分かってるもんね、なんつって難なくサッダート方面行きの電車に乗ると、砂漠から帰って来て砂だらけ、風呂も入ってない日本人は、その車両でもとびきり汚かった。申し訳ないなあと思い、ドアにもたれかかって小さくなっていると、つり革に捕まった乗客が今までの人生では見たことのない表情で俺を見つめていることに気付いた。うん?なんだろうと見回すと、2本の線路を隔てた反対側のホームから、お母さんに手を引かれた女の子が一生懸命俺に手を振っている。エジプトでは、子供たちは旅行者が大好き。どこで見かけても必ずとびきりの笑顔で手を振ってくれるのだ。
発車する電車の中では、小汚い日本人パッカーが、なにかに救われたかのような笑顔でその女の子に精一杯手を振り返していた。
エジプトの電車には、降りる人が先、などと言うルールはない。自分の降車駅が近づくと、降りたい人たち(降りる人、ではない。降りたい人、だ。)がドアの後ろに集合して、今から始まる押し合いに備える。そのとき芽生える奇妙な連帯感や、やあ、この人は押しが強そうだから大丈夫だなとか、そんな感覚も普通だ。果たして降りたい連合の圧勝で無事サッダート駅に降り立ったあとは、今度は迷う事もなく宿に戻ることができた。笑顔で迎えるウィリーの顔を見ると、砂漠の旅に出かけたのがもう随分と昔のことのように感じる。シャワーを浴びて航空券と列車のチケットを受け取ると、アスワン行きの飛行機まではまだしばらく時間があったので、夕食は一人でコシャリを食べに出かけることにした。
初日に行ったコシャリ屋は割とすぐに見つかった。とにかく腹ぺこだったので、「でっかいのください」と言うと、自分の胃袋の倍はありそうなコシャリがやって来たのだが、その時思ったのは「全然足りないよ!」だ。
エジプト人のおじいさんと相席で、恥ずかしいぐらいコシャリにがっついていると、テーブルの上に調味用のお酢と真っ赤な辛いソースが乗っていることに気付いた。お酢を少し足してみる。うん、うまい!からいソースはとても辛いので気をつけろ、って歩き方に書いてあったな。ちょっとだけかけてみようっと。えーっと、そーっと、そーっと、そーっと、
どばっ
無表情だが優しいオーラを発している相席のおじいさんの顔に、ほんの一瞬ではあったが、
おわっ
と言う表情が浮かんだのを見逃しはしなかった。店の反対側のテーブルで屈強そうなアラブ系の男性が、細やかな所作でそのソースを
ちろっ
とかけているのを見て、これは長い闘いになりそうだと、ペプシを買いに席を立った。えーと、大盛りを頼んでおいて残すのだけは絶対に嫌だし。しかも俺は食事の前にお百姓さんのことを思って手を合わす日本人だ。ガシャガシャとソースをかき混ぜると、何故か「俺すっげえ辛いの好きなんすよおおお!」的オーラを出しながら激辛コシャリをかき込んだ。
ぶふっ
鼻からコシャリ出そうになったじゃねえかよおおお!かっれええええええええええええええええ!!!!!くない!かっれえええええ!くないっすよ!あっはっは!うまい!かっれえええ!くない!
キリキリと痛む胃のSOSは無視して猛スピードで激辛コシャリをかき込み、一人SMショウをおじいさんに披露して残りあと数口となったとき、レジの若者がジェスチャーで
(お前!汗すごいぞ!!だいじょうぶか!)
(うん?ああ、大丈夫だよ!!)
(そうか!まあナプキン使え!)
と紙ナプキンを手渡してくれたのだが、その時紙ナプキンで拭かれたものが果たして汗だったのか涙だったのかは、今となっては自分でも思い出せない(泣)。(続く)
ドライバー同士はお互い協力し合う顔見知り。
砂漠を走る事数時間、行きに降りるのを躊躇したサービスエリアに再びバスが立ち寄ったとき、最初に感じた不安なんてもうなんでもなくなっている自分に気がついた。日本人パッカーを珍しそうに眺めてくるムスリムの視線も気にならなくなった。気にならなくなったせいか、視線はもうそれほど飛んでこなくなった。
込み合った売店に立ち寄ると、ナッツをキャラメルで固めた菓子が目に入った。うわー美味そうだなこれ!
「これいくら?」
店員「1ポンド。」
1ポンド硬貨と1ポンド札を共に切らしていたので、嫌な予感はしつつも5ポンド紙幣を手渡す。
「お釣りある?4ポンド。」
店員「ない。」
ないわけないだろー(笑)。でもまあ先に5ポンド紙幣を渡した俺が阿呆なのだ。ないと言い切ったきり5ポンド紙幣を返すそぶりもなく、ごった返したカウンターに群がる(エジプトでは列は滅多にできない)次の客の相手をしようとしている店員に、
「じゃあ残り4ポンド分は、他のお菓子を持って行くよ。それはいいよね?」
と尋ねると、あろうことかその返事はたった一言
店員「だめだ。」
だった。
カッッチーーン。いや、確かに世界は不公平だろうぜ。そして4ポンドを俺からむしり取るのは別に難しい事でもなんでもないさ。だって俺もともと限界まで値切ろうなんて考えてないもん。だけどな、今の話は、数学的にも、論理的にも、全くおかしいだろ!ジャンとパピルス屋のような、なんかこう、あんだろうそういうのがああ!!
「なんだとこの野郎!?NOっつったか!?」
こんのやろー返答次第じゃただじゃおかねえからな!するとようやく表情が浮かんだ店員が
店員「あ、いや。YES。」
と許可してくれたので、肩を震わせながらずんずんとお菓子コーナーに戻り、行きに食べて美味しかったウェハース(ちゃっかり)その他のお菓子をわしづかみにして、奴の顔にぐいっと差し出した。
「これとこれ持って帰るからな!」
と言い捨てると、しぶしぶコクリと頷く奴を背に、お菓子ウォーズは終結した。フー。そうだった。エジプトってこうだったこうだった。
そんなこともあったせいで、ギザ駅まで行くはずのバスが、渋滞がひどいからもうこれ以上走りたくないという至極真っ当な理由で、ギザよりずいぶん手前の人でごった返したバス停で停まったときには、もう特に驚きもしなかった。
「えー、てかどうしたらいいんだよ?」
運転手「知らん!メトロで行け!メトロじゃ!」
と前方を指差していたので
「あっちに行けばメトロあるの?」
運転手「メトロじゃ!」
何を聞いても「メトロじゃ!」しか言わん運転手にこれ以上聞いても無駄だと確信し、アミンと奥さん、その友人に丁寧に別れを告げ、すたすたと一人で歩き出すと、あ、一人旅再開だ、と気付くのだった。
駅を見つけるのに多少手間取ったものの、メトロ自体はもう乗り方分かってるもんね、なんつって難なくサッダート方面行きの電車に乗ると、砂漠から帰って来て砂だらけ、風呂も入ってない日本人は、その車両でもとびきり汚かった。申し訳ないなあと思い、ドアにもたれかかって小さくなっていると、つり革に捕まった乗客が今までの人生では見たことのない表情で俺を見つめていることに気付いた。うん?なんだろうと見回すと、2本の線路を隔てた反対側のホームから、お母さんに手を引かれた女の子が一生懸命俺に手を振っている。エジプトでは、子供たちは旅行者が大好き。どこで見かけても必ずとびきりの笑顔で手を振ってくれるのだ。
発車する電車の中では、小汚い日本人パッカーが、なにかに救われたかのような笑顔でその女の子に精一杯手を振り返していた。
エジプトの電車には、降りる人が先、などと言うルールはない。自分の降車駅が近づくと、降りたい人たち(降りる人、ではない。降りたい人、だ。)がドアの後ろに集合して、今から始まる押し合いに備える。そのとき芽生える奇妙な連帯感や、やあ、この人は押しが強そうだから大丈夫だなとか、そんな感覚も普通だ。果たして降りたい連合の圧勝で無事サッダート駅に降り立ったあとは、今度は迷う事もなく宿に戻ることができた。笑顔で迎えるウィリーの顔を見ると、砂漠の旅に出かけたのがもう随分と昔のことのように感じる。シャワーを浴びて航空券と列車のチケットを受け取ると、アスワン行きの飛行機まではまだしばらく時間があったので、夕食は一人でコシャリを食べに出かけることにした。
初日に行ったコシャリ屋は割とすぐに見つかった。とにかく腹ぺこだったので、「でっかいのください」と言うと、自分の胃袋の倍はありそうなコシャリがやって来たのだが、その時思ったのは「全然足りないよ!」だ。
エジプト人のおじいさんと相席で、恥ずかしいぐらいコシャリにがっついていると、テーブルの上に調味用のお酢と真っ赤な辛いソースが乗っていることに気付いた。お酢を少し足してみる。うん、うまい!からいソースはとても辛いので気をつけろ、って歩き方に書いてあったな。ちょっとだけかけてみようっと。えーっと、そーっと、そーっと、そーっと、
どばっ
無表情だが優しいオーラを発している相席のおじいさんの顔に、ほんの一瞬ではあったが、
おわっ
と言う表情が浮かんだのを見逃しはしなかった。店の反対側のテーブルで屈強そうなアラブ系の男性が、細やかな所作でそのソースを
ちろっ
とかけているのを見て、これは長い闘いになりそうだと、ペプシを買いに席を立った。えーと、大盛りを頼んでおいて残すのだけは絶対に嫌だし。しかも俺は食事の前にお百姓さんのことを思って手を合わす日本人だ。ガシャガシャとソースをかき混ぜると、何故か「俺すっげえ辛いの好きなんすよおおお!」的オーラを出しながら激辛コシャリをかき込んだ。
ぶふっ
鼻からコシャリ出そうになったじゃねえかよおおお!かっれええええええええええええええええ!!!!!くない!かっれえええええ!くないっすよ!あっはっは!うまい!かっれえええ!くない!
キリキリと痛む胃のSOSは無視して猛スピードで激辛コシャリをかき込み、一人SMショウをおじいさんに披露して残りあと数口となったとき、レジの若者がジェスチャーで
(お前!汗すごいぞ!!だいじょうぶか!)
(うん?ああ、大丈夫だよ!!)
(そうか!まあナプキン使え!)
と紙ナプキンを手渡してくれたのだが、その時紙ナプキンで拭かれたものが果たして汗だったのか涙だったのかは、今となっては自分でも思い出せない(泣)。(続く)
7人を乗せて砂漠を走ったジープ。奥に見えるのはフランス人夫妻のサポートカー。
ドライバー同士はお互い協力し合う顔見知り。
POSTED Saturday, November 20, 2010 02:40
デビロックナイト。
ほいー!昨日はゼップ東京でデビロックナイトに出演してきました!来てくれたみんなありがとう!めっちゃ楽しかったね!!:-)
ライブ中に具合が悪くなってしまった人も、その後全く大丈夫だったので、心配しないでね!
みなさん、お疲れさまでした!!
ライブ中に具合が悪くなってしまった人も、その後全く大丈夫だったので、心配しないでね!
みなさん、お疲れさまでした!!
POSTED Thursday, November 18, 2010 19:32
エジプト旅行記⑤ 10月27日 後編
バハリアオアシスからキャンプ予定地の白砂漠までは、黒砂漠とクリスタルマウンテンを経由して約3時間。ベルギー人男性2人組と、パキスタン人夫妻とその友人の3人組、さらに一人旅中の日本人に、エジプト人ドライバーを加えた7人を乗せ、白いジープはバンピーな悪路を猛スピードで駆け抜けていく。
サソリが出るから気をつけろ、の一言でテンションはMAXに。見たい!(見れなかったです。)
どなく黒砂漠を走り抜け、文字通り水晶でできた山、クリスタルマウンテンを越える頃には、旅行者6人の間には微妙な距離感の、なおかつそれなりな連帯感が生まれていた。決してシニカルではないが独特の雰囲気を持ったベルギー人2人と、女性2人が掴まる柱をつとめている旦那、そこに決して社交性の高くない俺が加わったところで、これ以上パーティーの距離が縮まるようには思えなかったが、それでも、油断してると舌を噛み切りそうなほど揺れる車室では、冗談まじりの会話がそこそこの盛り上がりを見せていた。
黒砂漠、といっても砂が黒いわけではなく、火山岩が大量に散らばっているために黒く見える。
サソリが出るから気をつけろ、の一言でテンションはMAXに。見たい!(見れなかったです。)
どなく黒砂漠を走り抜け、文字通り水晶でできた山、クリスタルマウンテンを越える頃には、旅行者6人の間には微妙な距離感の、なおかつそれなりな連帯感が生まれていた。決してシニカルではないが独特の雰囲気を持ったベルギー人2人と、女性2人が掴まる柱をつとめている旦那、そこに決して社交性の高くない俺が加わったところで、これ以上パーティーの距離が縮まるようには思えなかったが、それでも、油断してると舌を噛み切りそうなほど揺れる車室では、冗談まじりの会話がそこそこの盛り上がりを見せていた。
クリスタルマウンテンに腰掛けていると、別グループのアメリカ人女性から「写真撮ってあげようか?」と言われたのでカメラを渡すと、すごい離れたところまで戻ってこの写真を撮ってくれました。ありがとう!
あたりの景色が明らかにそれまでとは変わり、ところどころに乳白色の石灰岩が顔をのぞかせ始めた頃、砂漠の夕焼けショーも終わりを告げ、夜がやってくる。西の空がだんだんと朱色を弱めていく間、東の空ではゆっくりと闇のカーテンが立ち上がっていくのが見えた。この時に見た、昼と夜の間に広がっていた紺色のベルトはとても幻想的で、思い出すと今もなんとも言えない気持ちになるが、他の5人は特に気付いた様子もなく、みんな若干疲れてそうだった。おぅい!盛り上がって行こうぜい!などと言うとみんな不機嫌になりそうな予感がしたのでやめた。
あたりの景色が明らかにそれまでとは変わり、ところどころに乳白色の石灰岩が顔をのぞかせ始めた頃、砂漠の夕焼けショーも終わりを告げ、夜がやってくる。西の空がだんだんと朱色を弱めていく間、東の空ではゆっくりと闇のカーテンが立ち上がっていくのが見えた。この時に見た、昼と夜の間に広がっていた紺色のベルトはとても幻想的で、思い出すと今もなんとも言えない気持ちになるが、他の5人は特に気付いた様子もなく、みんな若干疲れてそうだった。おぅい!盛り上がって行こうぜい!などと言うとみんな不機嫌になりそうな予感がしたのでやめた。
砂漠に沈む夕陽。帰国まで何度見ても飽きなかった。
と、ドライバーが唐突に車を停め、無言で降りて何やらやり始めた。彼がこうして車を降りたのは1時間ほど前にも一回あったけど、その時はリアハッチのドアがちゃんと閉まってるか確認しただけだった。今度のは長い。なんだろう?何やってるんだ?
おわ、フラットタイヤ(パンク)だ。
リアハッチを開けて全員が車を降りると、辺りは奇岩だらけの白砂漠。空にはすでにミルキーウェイがかかっている。
「すっっげええええええ!」
とか声がでたけど、まずはパンクしたタイヤの交換が先。クリップ型のブックライトでドライバーの手元を照らす(持って来てよかった!)。ジャッキと工具を取り出して、ルーフに乗せたスペアタイヤを降ろして、さあ、ちゃっちゃっとやっちまおうぜ!
しかし気付いてはいたが、このドライバーさんはほんと無口。てか多分英語が喋れないんだろうけど、それでもまるでこの車に一人で乗ってここまで来て、パンクしてしまったかのような、たとえば俺たち6人はゴーストのように透明で、物体には触れることができないとでも思っているかのような作業っぷりだ。客にタイヤ交換を手伝わせる気はない、とかそういう感じじゃなくて、今日一日中、俺たち6人はいないかのように振る舞っている。
この仕事が嫌いなのか旅行者が嫌いなのか(これはよくある)、ただもともとそういう性格なのかは知らねえけどな、俺は手伝うからな。いいか、俺は一秒でも早くキャンプに着いて、一秒でも長く寝っ転がって星空を独り占めしたいんだぜ!
面白いように転がっていってしまったスペアタイヤを取りに走り、なんでお前そんなの手伝ってるんだ?頼まれてもないのに物好きだなあという周囲の視線を感じながらも、あと2時間ほどで月が昇って、星がいまほど見えなくなることをヨハンから聞かされていた俺にとって、そんなことはどうでもよかった。奴の仕事は若干危なっかしく、あげくにジャッキを最大に伸ばしてもパンクした左前輪を浮かすことすらできずに、二人仲良くパンクしたタイヤの周囲の砂を掘るはめになった。素手で掘り進めていると、昼間の灼熱からは考えられない、ひんやりとした砂が気持ちいい。なんのためのジャッキじゃあああ(笑)とか思いながらも、まるで用意されたアトラクションのように感じるほど、この時間が楽しかった。思ったほど長くはかからずに、ひっかかった最後の砂を掘り終えて、パンクしたタイヤがからからと回った。
我々にとっては運良く、そして本人にとっては運悪く、砂漠を通りがかった(砂漠通りがかんなよ!と心でつっこんどきました。)おっちゃんはさすがに手慣れていて、スペアタイヤの装着はあっと言う間に終わり、無事にジープはキャンプサイトへ到着。2時間もせずに月が登るらしいことをみんなに伝え、そっこーで荷台を飛び降り、ちょっと離れたところで上を向いて寝っ転がると、そこには今までに見たどんな星空よりも綺麗な、ほんとうに満天の星空が広がっていた。
その星空を見た体験というのは、ちょっと言葉にはできない気がする。今でも目を閉じるとすぐに思い出せるけど、まるで自分の眼球の中に小さな無数の星が入っていて、目を閉じてその輝きを見ているような、そんな感覚。視界のあちらこちらで星が流れていた。
おわ、フラットタイヤ(パンク)だ。
リアハッチを開けて全員が車を降りると、辺りは奇岩だらけの白砂漠。空にはすでにミルキーウェイがかかっている。
「すっっげええええええ!」
とか声がでたけど、まずはパンクしたタイヤの交換が先。クリップ型のブックライトでドライバーの手元を照らす(持って来てよかった!)。ジャッキと工具を取り出して、ルーフに乗せたスペアタイヤを降ろして、さあ、ちゃっちゃっとやっちまおうぜ!
しかし気付いてはいたが、このドライバーさんはほんと無口。てか多分英語が喋れないんだろうけど、それでもまるでこの車に一人で乗ってここまで来て、パンクしてしまったかのような、たとえば俺たち6人はゴーストのように透明で、物体には触れることができないとでも思っているかのような作業っぷりだ。客にタイヤ交換を手伝わせる気はない、とかそういう感じじゃなくて、今日一日中、俺たち6人はいないかのように振る舞っている。
この仕事が嫌いなのか旅行者が嫌いなのか(これはよくある)、ただもともとそういう性格なのかは知らねえけどな、俺は手伝うからな。いいか、俺は一秒でも早くキャンプに着いて、一秒でも長く寝っ転がって星空を独り占めしたいんだぜ!
面白いように転がっていってしまったスペアタイヤを取りに走り、なんでお前そんなの手伝ってるんだ?頼まれてもないのに物好きだなあという周囲の視線を感じながらも、あと2時間ほどで月が昇って、星がいまほど見えなくなることをヨハンから聞かされていた俺にとって、そんなことはどうでもよかった。奴の仕事は若干危なっかしく、あげくにジャッキを最大に伸ばしてもパンクした左前輪を浮かすことすらできずに、二人仲良くパンクしたタイヤの周囲の砂を掘るはめになった。素手で掘り進めていると、昼間の灼熱からは考えられない、ひんやりとした砂が気持ちいい。なんのためのジャッキじゃあああ(笑)とか思いながらも、まるで用意されたアトラクションのように感じるほど、この時間が楽しかった。思ったほど長くはかからずに、ひっかかった最後の砂を掘り終えて、パンクしたタイヤがからからと回った。
我々にとっては運良く、そして本人にとっては運悪く、砂漠を通りがかった(砂漠通りがかんなよ!と心でつっこんどきました。)おっちゃんはさすがに手慣れていて、スペアタイヤの装着はあっと言う間に終わり、無事にジープはキャンプサイトへ到着。2時間もせずに月が登るらしいことをみんなに伝え、そっこーで荷台を飛び降り、ちょっと離れたところで上を向いて寝っ転がると、そこには今までに見たどんな星空よりも綺麗な、ほんとうに満天の星空が広がっていた。
その星空を見た体験というのは、ちょっと言葉にはできない気がする。今でも目を閉じるとすぐに思い出せるけど、まるで自分の眼球の中に小さな無数の星が入っていて、目を閉じてその輝きを見ているような、そんな感覚。視界のあちらこちらで星が流れていた。
キャンプファイヤーで料理。一回薪をずらして、炭の上でアルミホイルに入れた野菜と鶏肉を焼く。
その後はバーベキューの鶏肉、暖かいスープ、アエーシをほおばったのだが、この食事は本当に旨かった。多分、何喰っても旨かったんだと思う。そこに旨いもん喰ったもんだからそりゃあもう旨かった。食事を終えて雑談していると、砂漠キツネがひょっこりと姿を現した。
「エサやったらまずいと思う?」
ダメだとは思いつつ、あんまりかわいすぎて、言葉にしてしまった。
ベルギー人のクン「だめだって。それはすごい良くないよ。」
「うん(笑)。そうだよね。」
野生動物がこんなに人や火の近くに来ている時点ですでに手遅れな感じもあるけど、とにかくかわいかったなあ!
パキスタン人の女性「なんでキャンプのこんな人に近いとこまで来るのかしら?」
クン「きっと人間のことが好きになってきたんだよ。」
「それだけはないだろー。メシが喰えると思って来ただけだと思うけど」
ここだけは俺が当たってるはずだ。
キャンプのすぐ脇にある大きな岩をぐるっとまわった反対側まで散歩して、大きな奇岩が右手に見える位置に腰をおろすと、特に何も困ったつもりも、問題もなかったはずなのに、半日ぶりに一人になったせいか、
(はー、集団行動ほんっとに苦手だわー。)
なんて正直な気持ちが聞こえて来る。こういうとき俺の頭は、自分がとんでもない欠陥品だっていう思いでいっぱいになる。いったい何をストレスに感じるんだろう。ここには誰も悪いひとなんていないのに。俺は何を直せばいいんだろう。それが知りたい、と思った。
座り込んでそんなことを考えていると、暗闇の中から一人の男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。それはすごく唐突で不思議な光景だった。その男はゆっくりと近づくと隣に腰を降ろし、こう言った。
謎の男「何か食べるもの持って来てやるよ。待ってな。」
男が去って行く方向に目を凝らすと、離れたところにバンが一台停まっていて、そのバンに張られたタープの下には寝袋のようなものが見える。右に視線を移すと、50メートルほど離れたところにはテントもあった。
オレンジを一つ手に、男は再び俺の隣に腰を降ろした。
男「オレンジ持って来た。喰うか?」
「ありがとう。半分食べる?」
男「俺はいいよ。もうお腹いっぱいだ。」
寝ている旅行者たちを起こさないようにひそひそ声で話しているうちに、この男も砂漠のガイドで今は3人の女性の世話をしていることがわかった。2人は寝袋で、1人はテントで寝ているらしく、一週間ひたすら砂漠にいるらしい。
「一週間もいるの??いいなああああ!」
男「だろう?俺は今回の仕事が嬉しくてしょうがないよ。この静かさが大好きなんだ。」
「わかるよー。いつか俺も日本の友達数人と、そんなことやりに戻って来たいなあ。」
男「そのときは、俺をガイドに雇うといいよ。」
「うん。その時はそうする。」
寒さに震えるのを隠そうとしていた彼にお礼を言って、キャンプへ戻ろうと立ち上がると、右の奇岩の上には、明るく美しい月が昇っていた。ああこの月も、とてもきれいだ。
その後はバーベキューの鶏肉、暖かいスープ、アエーシをほおばったのだが、この食事は本当に旨かった。多分、何喰っても旨かったんだと思う。そこに旨いもん喰ったもんだからそりゃあもう旨かった。食事を終えて雑談していると、砂漠キツネがひょっこりと姿を現した。
「エサやったらまずいと思う?」
ダメだとは思いつつ、あんまりかわいすぎて、言葉にしてしまった。
ベルギー人のクン「だめだって。それはすごい良くないよ。」
「うん(笑)。そうだよね。」
野生動物がこんなに人や火の近くに来ている時点ですでに手遅れな感じもあるけど、とにかくかわいかったなあ!
パキスタン人の女性「なんでキャンプのこんな人に近いとこまで来るのかしら?」
クン「きっと人間のことが好きになってきたんだよ。」
「それだけはないだろー。メシが喰えると思って来ただけだと思うけど」
ここだけは俺が当たってるはずだ。
キャンプのすぐ脇にある大きな岩をぐるっとまわった反対側まで散歩して、大きな奇岩が右手に見える位置に腰をおろすと、特に何も困ったつもりも、問題もなかったはずなのに、半日ぶりに一人になったせいか、
(はー、集団行動ほんっとに苦手だわー。)
なんて正直な気持ちが聞こえて来る。こういうとき俺の頭は、自分がとんでもない欠陥品だっていう思いでいっぱいになる。いったい何をストレスに感じるんだろう。ここには誰も悪いひとなんていないのに。俺は何を直せばいいんだろう。それが知りたい、と思った。
座り込んでそんなことを考えていると、暗闇の中から一人の男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。それはすごく唐突で不思議な光景だった。その男はゆっくりと近づくと隣に腰を降ろし、こう言った。
謎の男「何か食べるもの持って来てやるよ。待ってな。」
男が去って行く方向に目を凝らすと、離れたところにバンが一台停まっていて、そのバンに張られたタープの下には寝袋のようなものが見える。右に視線を移すと、50メートルほど離れたところにはテントもあった。
オレンジを一つ手に、男は再び俺の隣に腰を降ろした。
男「オレンジ持って来た。喰うか?」
「ありがとう。半分食べる?」
男「俺はいいよ。もうお腹いっぱいだ。」
寝ている旅行者たちを起こさないようにひそひそ声で話しているうちに、この男も砂漠のガイドで今は3人の女性の世話をしていることがわかった。2人は寝袋で、1人はテントで寝ているらしく、一週間ひたすら砂漠にいるらしい。
「一週間もいるの??いいなああああ!」
男「だろう?俺は今回の仕事が嬉しくてしょうがないよ。この静かさが大好きなんだ。」
「わかるよー。いつか俺も日本の友達数人と、そんなことやりに戻って来たいなあ。」
男「そのときは、俺をガイドに雇うといいよ。」
「うん。その時はそうする。」
寒さに震えるのを隠そうとしていた彼にお礼を言って、キャンプへ戻ろうと立ち上がると、右の奇岩の上には、明るく美しい月が昇っていた。ああこの月も、とてもきれいだ。
暗闇の写真は一枚も撮らなかった。これは翌朝撮った白砂漠。もはや、別の惑星に来たとしか思えない。
クン「おかえり。」
「ただいま。そうだ、オレンジ食べる?」
クン「オレンジ?オレンジなんてどうしたの?」
「どうしたと思う?」
クン「まさか砂漠の真ん中にいきなりオレンジの木でも生えてたのか?」
「はっはっは!ま、そんな感じだよ。:-)」
そう言って火の周りに座り、再び輪の中に戻ってしばらくすると、どこからかフランス人夫婦とそのガイド2人がキャンプファイヤーに合流した。この夫婦は歩いて砂漠を旅しているらしく、ガイドとドライバーは車で食料などを運んでいるそうだ。そうか。オアシスに滞在して、自分に合ったガイドと交渉すれば、ツアーじゃなくていろんな旅を作れるんだな。すごい旅だなあ、なんて思いながら、あんまり口を開かないようにしていると、どうもこのフランス人夫婦がとてもとても優しい目で俺を眺めてくる。これは気のせいじゃあないぞ。と思う頃には、二人とも俺の隣に移動してきていて、日本に行ったことがあるんだと、こんなエピソードを話しはじめた。
京都に一ヶ月滞在していたある日のこと。その日二人は別行動をとっていた。奥さんの方が京都の街を一人自転車で観光していたとき、ほんとに軽くではあるが、自動車と接触してヒザを擦りむいてしまった。その場で必死に謝る日本人の女性ドライバーに、ほんとうになんともないから、もう大丈夫だからと繰り返し告げて、奥さんはその場を後にした。そんなこともすっかり忘れ、京都の名所をいくつか回った夕方、彼女は偶然またその車に出会うのだが、実はそれは偶然ではなかった。その女性ドライバーは、彼女と別れた後に薬局で絆創膏を購入すると、半日かけて再び彼女を捜し出し、さっきはほんとにごめんなさいと、絆創膏を手渡したそうだ。
奥さん「私たちは、日本の人がほんとうに大好きなの。」
外国人から日本人はほんとうに優しい、という言葉をもらうことはしょっちゅうあるけど、その都度、うーん、と思う。正直に思った事を言わないってだけで、実はなにを考えてるのかわからない、っていうのは、きっと優しさじゃない。でもこの時ばっかりは、
「ありがとう。確かに、日本人は優しいかもね。」
そう言って、残ったオレンジを分け合った。
寝袋にくるまると顔だけがきんきんと寒い。砂漠の夜の寒さを実感できてることに感激しながら、どうやらさっき感じたストレスは、日本でもよく感じるやつなんじゃないかなんて考えてるうちに、あっと言う間に眠りに落ちた。(続く)
クン「おかえり。」
「ただいま。そうだ、オレンジ食べる?」
クン「オレンジ?オレンジなんてどうしたの?」
「どうしたと思う?」
クン「まさか砂漠の真ん中にいきなりオレンジの木でも生えてたのか?」
「はっはっは!ま、そんな感じだよ。:-)」
そう言って火の周りに座り、再び輪の中に戻ってしばらくすると、どこからかフランス人夫婦とそのガイド2人がキャンプファイヤーに合流した。この夫婦は歩いて砂漠を旅しているらしく、ガイドとドライバーは車で食料などを運んでいるそうだ。そうか。オアシスに滞在して、自分に合ったガイドと交渉すれば、ツアーじゃなくていろんな旅を作れるんだな。すごい旅だなあ、なんて思いながら、あんまり口を開かないようにしていると、どうもこのフランス人夫婦がとてもとても優しい目で俺を眺めてくる。これは気のせいじゃあないぞ。と思う頃には、二人とも俺の隣に移動してきていて、日本に行ったことがあるんだと、こんなエピソードを話しはじめた。
京都に一ヶ月滞在していたある日のこと。その日二人は別行動をとっていた。奥さんの方が京都の街を一人自転車で観光していたとき、ほんとに軽くではあるが、自動車と接触してヒザを擦りむいてしまった。その場で必死に謝る日本人の女性ドライバーに、ほんとうになんともないから、もう大丈夫だからと繰り返し告げて、奥さんはその場を後にした。そんなこともすっかり忘れ、京都の名所をいくつか回った夕方、彼女は偶然またその車に出会うのだが、実はそれは偶然ではなかった。その女性ドライバーは、彼女と別れた後に薬局で絆創膏を購入すると、半日かけて再び彼女を捜し出し、さっきはほんとにごめんなさいと、絆創膏を手渡したそうだ。
奥さん「私たちは、日本の人がほんとうに大好きなの。」
外国人から日本人はほんとうに優しい、という言葉をもらうことはしょっちゅうあるけど、その都度、うーん、と思う。正直に思った事を言わないってだけで、実はなにを考えてるのかわからない、っていうのは、きっと優しさじゃない。でもこの時ばっかりは、
「ありがとう。確かに、日本人は優しいかもね。」
そう言って、残ったオレンジを分け合った。
寝袋にくるまると顔だけがきんきんと寒い。砂漠の夜の寒さを実感できてることに感激しながら、どうやらさっき感じたストレスは、日本でもよく感じるやつなんじゃないかなんて考えてるうちに、あっと言う間に眠りに落ちた。(続く)
別テイク。
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