POSTED Wednesday, November 10, 2010 15:19
エジプト旅行記③ 10月26日 後編
13時にピザハットの前でジャンレノにピックアップされた後は、ジェゼル王の階段ピラミッドをサッカーラに訪ねて、一路古王国時代の王都メンフィスへ。現在のミト・ラヒーナ村にある、メンフィス博物館のラムセス2世の巨像を見るためだ。
博物館のバルコニーから見た植物。爆発する生命力に心奪われる。
博物館を出てジャンレノの待つタクシーへと戻ると、あれ?乗ってないな。てか窓も開けっ放し、鍵もつけっぱなしかよ。きょろきょろと辺りを見回すと、民家の軒先、背の高い木がまばらに生えているその木陰に、木製のカフェテーブルのようなものを囲むようにして、5人ほどのエジプト人がおのおのシーシャを吸ったり紅茶を飲んだりしている。ムスリムらしい服装をした初老の紳士や、洋服に眼鏡をかけた若者に混じって、ジャンも悠々とくつろいでいるではないか。ああ、そういえばメンフィスに住んでるって言ってたもんな。ここは友達の家かなんかなのかな。すたすたとそのテーブルに向かい、空いている椅子に腰かけると、初老の紳士がシーシャを吹かしながら、紅茶をすすめてくれた。
おじいさん「紅茶にはウィスキーを入れるかい?」
「あれ?ウィスキーなんてあるの?」
エジプトではアルコールを半ば諦めないとダメだなと思ってたから、なんか唐突に嬉しい。
おじいさん「入れるのか。入れないのか。」
「ああ、できれば入れてください。多めに。」
ジャン「あんまりゆっくりしてられないぞ。この後もう一カ所回るんだ。」
「うん、でも赤のピラミッドはもういいんだ。ここでしばらくのんびりして、今日はこれで帰ろうよ。」
おじいさん「そうじゃそうじゃ。そうするがいい。リラックスは大事じゃぞ。」
ジャン「そうするか?まあ、お前の旅だからな。わかったよ。」
そうしてしばらく、テーブルに落ちる広葉樹の影や、濃い緑の葉の間にきらめく陽光を眺めていると、旅の疲れが消えて行くのを感じる。ふと訪れるこういう瞬間がたまんねえんだよなあ、なんつって、暖かい紅茶がそれはそれは美味しく感じるのだった。その後は無遠慮にもおかわりなんぞをもらいながら、シーシャも回って来て、ゆったりとくつろぐことができた。英語が堪能なエジプシャン達との会話はけっこう盛り上がって、その中で交わされた会話にとても心に残っている場面がある。
眼鏡君「お前いいやつだな。」
「そんなことないよ。努力はしたいけど。」
おじいさん「いや、そんな努力をしてはいかん。いいか、お前はただお前でいればいい。そもそもお前には、何かを誰かに証明する義務などないのだ。」
「?」
おじいさん「他の誰かに何かを証明しようとする。そこからお前はお前ではなくなり、物事がおかしくなりはじめるのだ。」
おおっ!!確かにその通りだ。旅ってすげえなあ。この一言、この先も忘れないでいたいなあ。なんて感動してて、おじいさんの口からついにその一言が出てくるまで、しっかりと型にはめられてることには全く気付かなかった。
おじいさん「さて、ところでな、旅の人。うちはパピルス工場をやっとるんだがな。どうじゃ。ちょっと見学していかんか?」
(あれ?ここ土産物屋っすか?)
そうなのだ。ジャンとこのパピルス屋とはバーター仲間で、博物館の帰りの旅行者を、頼んでもいないのに連れて来る事になっていたのだ。ツアー客なんかもバスでいきなり土産物屋に連れて行かれたりするあれだ。わー!気付けよー俺!こんなのぜったいワケありに決まってるじゃないか!先に言えよジャン!って、言う訳ねえもんなあああ。しかし上手いなこりゃ!
なんて頭では思いつつも、心はこの素晴らしい時間にとても満足していたので、最初から、パピルスを一つ買うつもりで建物に入った。最後いきなり仕事モードに持ってかれて面食らったが、それまでの会話の全てが作戦という訳でもなかろう。どうせ一葉になにかエジプトの匂いを買って帰りたかったからちょうどいいや。頼んでもいないパピルスの作り方を一通り実演された後で、荷物にならない大きさで、一番目を引いたものを手に取った。レジ係の眼鏡君にお金を払って、さかんにもっと大きいのをすすめるじっちゃんを尻目に、さあカイロへ戻るぞ、ジャン。
博物館を出てジャンレノの待つタクシーへと戻ると、あれ?乗ってないな。てか窓も開けっ放し、鍵もつけっぱなしかよ。きょろきょろと辺りを見回すと、民家の軒先、背の高い木がまばらに生えているその木陰に、木製のカフェテーブルのようなものを囲むようにして、5人ほどのエジプト人がおのおのシーシャを吸ったり紅茶を飲んだりしている。ムスリムらしい服装をした初老の紳士や、洋服に眼鏡をかけた若者に混じって、ジャンも悠々とくつろいでいるではないか。ああ、そういえばメンフィスに住んでるって言ってたもんな。ここは友達の家かなんかなのかな。すたすたとそのテーブルに向かい、空いている椅子に腰かけると、初老の紳士がシーシャを吹かしながら、紅茶をすすめてくれた。
おじいさん「紅茶にはウィスキーを入れるかい?」
「あれ?ウィスキーなんてあるの?」
エジプトではアルコールを半ば諦めないとダメだなと思ってたから、なんか唐突に嬉しい。
おじいさん「入れるのか。入れないのか。」
「ああ、できれば入れてください。多めに。」
ジャン「あんまりゆっくりしてられないぞ。この後もう一カ所回るんだ。」
「うん、でも赤のピラミッドはもういいんだ。ここでしばらくのんびりして、今日はこれで帰ろうよ。」
おじいさん「そうじゃそうじゃ。そうするがいい。リラックスは大事じゃぞ。」
ジャン「そうするか?まあ、お前の旅だからな。わかったよ。」
そうしてしばらく、テーブルに落ちる広葉樹の影や、濃い緑の葉の間にきらめく陽光を眺めていると、旅の疲れが消えて行くのを感じる。ふと訪れるこういう瞬間がたまんねえんだよなあ、なんつって、暖かい紅茶がそれはそれは美味しく感じるのだった。その後は無遠慮にもおかわりなんぞをもらいながら、シーシャも回って来て、ゆったりとくつろぐことができた。英語が堪能なエジプシャン達との会話はけっこう盛り上がって、その中で交わされた会話にとても心に残っている場面がある。
眼鏡君「お前いいやつだな。」
「そんなことないよ。努力はしたいけど。」
おじいさん「いや、そんな努力をしてはいかん。いいか、お前はただお前でいればいい。そもそもお前には、何かを誰かに証明する義務などないのだ。」
「?」
おじいさん「他の誰かに何かを証明しようとする。そこからお前はお前ではなくなり、物事がおかしくなりはじめるのだ。」
おおっ!!確かにその通りだ。旅ってすげえなあ。この一言、この先も忘れないでいたいなあ。なんて感動してて、おじいさんの口からついにその一言が出てくるまで、しっかりと型にはめられてることには全く気付かなかった。
おじいさん「さて、ところでな、旅の人。うちはパピルス工場をやっとるんだがな。どうじゃ。ちょっと見学していかんか?」
(あれ?ここ土産物屋っすか?)
そうなのだ。ジャンとこのパピルス屋とはバーター仲間で、博物館の帰りの旅行者を、頼んでもいないのに連れて来る事になっていたのだ。ツアー客なんかもバスでいきなり土産物屋に連れて行かれたりするあれだ。わー!気付けよー俺!こんなのぜったいワケありに決まってるじゃないか!先に言えよジャン!って、言う訳ねえもんなあああ。しかし上手いなこりゃ!
なんて頭では思いつつも、心はこの素晴らしい時間にとても満足していたので、最初から、パピルスを一つ買うつもりで建物に入った。最後いきなり仕事モードに持ってかれて面食らったが、それまでの会話の全てが作戦という訳でもなかろう。どうせ一葉になにかエジプトの匂いを買って帰りたかったからちょうどいいや。頼んでもいないパピルスの作り方を一通り実演された後で、荷物にならない大きさで、一番目を引いたものを手に取った。レジ係の眼鏡君にお金を払って、さかんにもっと大きいのをすすめるじっちゃんを尻目に、さあカイロへ戻るぞ、ジャン。
ルネッサンス記の先人たちが確立した透視図法を粉砕するような前衛性に、やつも溜飲を下げることだろう。
ちなみにカイロの街へ戻る途中、ジャンとの会話は全て婚前交渉についてに終止した。
そしてカイロの街へ。その後はナイル側に沈む夕陽をぼけーっと眺めて、あ、そうだ、明日は砂漠へ行こう。カイロはもういいや。きっと夜は寒いだろうからな。なんか長袖をもう一枚買っとこう。なんて思って街をうろついているうちに完全な迷子になりました(泣)。うーん。どこだここは。
半泣きで地図を見ながら何度も同じ道を行ったり来たりして、スーツ姿のおやっさんに道を教えてもらってようやく地下鉄の駅を発見したときには、もう足のマメがつぶれそうになっていた。いや、初日で潰れたら困るぞ。ここからは地下鉄に乗って帰ろう。タハリール広場のあるサッダート駅までは1ポンド。地元民でごった返すメトロに揺られながら、1日でこんなに歩いたのはいつぶりだろう、とひとりニヤニヤする。
ちなみにカイロの街へ戻る途中、ジャンとの会話は全て婚前交渉についてに終止した。
そしてカイロの街へ。その後はナイル側に沈む夕陽をぼけーっと眺めて、あ、そうだ、明日は砂漠へ行こう。カイロはもういいや。きっと夜は寒いだろうからな。なんか長袖をもう一枚買っとこう。なんて思って街をうろついているうちに完全な迷子になりました(泣)。うーん。どこだここは。
半泣きで地図を見ながら何度も同じ道を行ったり来たりして、スーツ姿のおやっさんに道を教えてもらってようやく地下鉄の駅を発見したときには、もう足のマメがつぶれそうになっていた。いや、初日で潰れたら困るぞ。ここからは地下鉄に乗って帰ろう。タハリール広場のあるサッダート駅までは1ポンド。地元民でごった返すメトロに揺られながら、1日でこんなに歩いたのはいつぶりだろう、とひとりニヤニヤする。
ナイル川対岸に沈み行く夕陽。
宿でシャワーを浴びると、約束どおりその気になったのでソニーの経営するユースホステルへ出向き、結局白砂漠一泊キャンプツアーの他に、アブシンベル神殿行きの航空券とバスチケット、さらにそこからルクソール行きの電車のチケットを確保してもらうことになった。ソニーの仕事は早い上に正確だ。そのうえユーモアのセンスもある。この男が唯一持っていないものは、柏倉隆史のような渋いヒゲぐらいだなと思いながら、お礼にカイロの最後の夜をこのホステルで予約して、ウィリーとご飯を食べに行った。
ウィリーとの食事中に、長いこと考えてた疑問に対して、あっさりと答えが出てしまった。ニーチェやフロイトやユングを読んでもダメだったのに。この時はもう、旅の目的を全部果たしちゃったような気分だった。いつからか気になっていたピラミッドは観れたし、この旅中で見つかるといいなと思っていた答えもわかったし。あとはオマケみたいなもんだな。思いっきり楽しんでこよう!
ようやくビールを辞めることが出来たんだ、と話すウィリーの前で2本目のビールを頼む気にはなれずに、明日も朝早いからと1時すぎには宿に戻ったのだが、この時はまだ何もわかっていなかった。翌日の夕暮れに辿り着くことになる、白砂漠から本当の旅は始まるのだった。(続く)
宿でシャワーを浴びると、約束どおりその気になったのでソニーの経営するユースホステルへ出向き、結局白砂漠一泊キャンプツアーの他に、アブシンベル神殿行きの航空券とバスチケット、さらにそこからルクソール行きの電車のチケットを確保してもらうことになった。ソニーの仕事は早い上に正確だ。そのうえユーモアのセンスもある。この男が唯一持っていないものは、柏倉隆史のような渋いヒゲぐらいだなと思いながら、お礼にカイロの最後の夜をこのホステルで予約して、ウィリーとご飯を食べに行った。
ウィリーとの食事中に、長いこと考えてた疑問に対して、あっさりと答えが出てしまった。ニーチェやフロイトやユングを読んでもダメだったのに。この時はもう、旅の目的を全部果たしちゃったような気分だった。いつからか気になっていたピラミッドは観れたし、この旅中で見つかるといいなと思っていた答えもわかったし。あとはオマケみたいなもんだな。思いっきり楽しんでこよう!
ようやくビールを辞めることが出来たんだ、と話すウィリーの前で2本目のビールを頼む気にはなれずに、明日も朝早いからと1時すぎには宿に戻ったのだが、この時はまだ何もわかっていなかった。翌日の夕暮れに辿り着くことになる、白砂漠から本当の旅は始まるのだった。(続く)
宿の階段の主。すんません、通してもらっていいすか。
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