一体誰がインターネットなんて作ったんだ。。携帯だってそうだ。どっちもなければ、今こうやってバンコク、スワンナプーム国際空港まで日本での仕事が追いかけてくる事なんてなかったはずだ。そんなことを思いながら、トランジットポイントのタイでかれこれ5時間、ラップトップと向き合ってる。TCP/IPの開発者たちにはどこまでの未来が見えていたのだろう。今では世界の人口の7人に1人がFacebookを使い、彼らのメモリーバンクには日に数千台のサーバーが追加されている。冒頭からいきなり話は脱線するけれど、18世紀に蒸気機関を発明したエンジニアたちの胸には、歩ける距離を超えて人々が交流する豊かな未来への憧憬のみが思い浮かんでいたに違いない。夢と希望に溢れ、新たな発明や技術を追い求めた結果、産業革命からわずか2世紀で、自身の発明により地球の気候が大きく変動することなど、露とも思わなかったに違いない。
そんな安っぽい愚痴めいた発想で目の前にある仕事を罵りながらも、向こう一週間の自由を手に入れるためには、スワンナプーム初カトゥマンドゥ行きの国際便に搭乗する前に、今ペンディングになっている全ての要件に対して結論を出す必要があることは痛いほどわかっていた。数ギガバイトの資料をダウンロードする間、パイプ椅子に体を横たえていると、首筋に何かもぞもぞと動くものがある。気のせいかと一回は無視してみたが、どうやら本当に何かいるらしい。右手の指で掴んでみると、2cmほどの大きさのゴキブリ。よう、はじめてタイに来た時も会ったな、と思いつつポイと通路に放り、搭乗案内を待った。
EMIの担当とのやりとりは果たして機内でも続き、ドアが閉まって全ての電子機器の電源を切るようアナウンスがされる頃(タイ航空では離着陸時、電波を発信しない電子機器でも使用が禁じられている)、「これでもう本当に全部終わり?」「はい、ネパール楽しんできてくださいね」というLINEのやりとりをもってして、俺の最も新しい一人旅が始まった。
事前に購入したのは航空券と地球の歩き方ネパール編、一週間洗濯せずに履き続けられるトラウザーと、気候に合わせて重ね着ができそうなアウター、そしてトレッキング用に新調したバックパックだ。機内で初日の宿に軽く目星をつけると、1時間ほど眠りに落ちた。機内食(朝食)のアナウンスで目覚めると、窓の外には見たこともない景色が広がっている。はっはっは!これは知らねえぞ!エジプト旅行記さえ完結していないのに、今回の旅は文字にしてみようと思った瞬間だった。
(↑おそらくバングラデシュ南沖を飛行中の写真。カトゥマンドゥ着陸時は写真撮れないので。)
1月のネパールは乾季だが冬で気温が低く、ツーリズム的にはオフシーズン。そんなことさえ知らずに飛行機に乗ったもんだから、当然街のイメージなんて何もない。なんとなく、農村めいた、のどかで、のんびりとした街を想像していた。街の中心にはストゥーパ(仏塔)があって、5色の旗がひらめいているのだろう。人々は軒先で美しい空と空気に包まれ、笑顔があふれているのだろう。そして、この街を離れる頃には、自分は今までより少しだけ、優しくなれているのだろう。そんな俺の勝手な予想は全くの思い違いだったと、国際線の到着ロビーを出た瞬間に思い知らされる。東京の堅苦しい空気をまとい、ガイドブックを片手にタクシーを探す通貨的優位に立った国からの旅行者を、自分のタクシーに乗せるべく壮絶な争奪戦が繰り広げられるその光景は、エジプト、ルクソールのバス停にも引けを取らない。
「コニチワ!日本人か?タクシー乗るんだろ?」
恰幅のいい御仁に詰め寄られたが、ここはなるべくこっちのペースで事を運びたい。
「まあね。でもとりあえず水が買いたいからいいよ。ほっといて」
そう言って歩き進めるも、このテンションでやり過ごすのは100mほどが限界だった。どうしたって到着日は浮ついた空気をまとっているので、彼らには格好のカモだ。どれが正規のタクシーなんだか皆目見当がつかないなか、売店の場所を教えてやるという大柄なおっちゃんが現れた。
「いいよ。自分で探せるから」
「(無視)こっちだ。ほら、あそこに売ってるぞ。(売店まで連れ立って歩いて)こいつに水を売ってやってくれ。ほら、100ルピーだ」
「ああ、ありがと。じゃあね」
「(無視)(いつの間にか横にいた男を指して)ほら、こいつがお前のタクシーだ。いいよな?」
「ああん?だからいらねーっつってんじゃん」
と紹介された男(ジョニー:仮名)の顔を見るとまあ、人の良さそうな優しい顔をしているので、ふぅ、まあいいか。どっちにしろタクシーには乗るんだから、と思い「はー。おっけー。タメル地区までいくら?」と聞くと、400ルピーでいいとのこと。なんだ、ずいぶん安いじゃないか。ほんじゃ、決まりね、と握手をして二人で歩き出し、ほどなく駐車場にさあ、到着というところでジョニーが口を開いた。
「バイクだけど、いいよね?」
こうして当然のように彼の「友達」が経営しているというホテルに到着。屋上階がカフェテラスになっていて、見晴らしも悪くない。何はともあれ腰を下ろしてビールを頼むと、「せっかく連れてきてもらって悪いんだけど、ここに泊まる気はないよ。少なくとも目星をつけたホテルを見てからでないと」と伝えると、彼も「もちろんもちろん」と了承してくれた。周りを見渡すと、身長190cmはありそうな、大柄なドイツ人エメリヒ(仮名:めっちゃ適当です)が寒そうにブランケットにくるまり、ネパールティーをすすっている。特に急ぐ旅でもないので、エメリヒと何気ない会話をしていたのだが、この男がまた本当に人懐っこい笑顔で笑うのだ。
エ「俺も今日着いたんだけど、空港で上着をなくしちゃってさ、なんか買わないとだよ笑」
俺「そりゃ災難だったね。夜はもっと冷えそうだよね」
エ「君はここに泊まるの?」
俺「いいや。多分そうはならないな」
エ「俺もそうだよ。ここはちょっと高すぎるからね。節約しないといけないんだ」
から始まり、普段自分の住んでる世界や音楽の話など、賢さを感じさせるエメリヒの話ぶりにしばらく話し込んだものの、やはり宿が決まっていない心地悪さもあったので、別れを切り出した。
「楽しかったよ。それじゃ」
「もしよかったら、連絡先を教えてくれないか?Facebookはやってるんだろ?」
「ははは。それがやってないんだ。Emailのアドレスを書いて渡すよ」
そう言ってナプキンにアドレスを書いて渡すと、
「ふーむ。俺はEmailってやったことないなぁ」
「世代の違いかもね笑 まあ、縁があったらまた会うよ。東京に来ることがあったら連絡してみて。それじゃ」
そう言って宿を後にする。
(↑カトゥマンドゥのタメル地区。旅行者や行商など、いつも賑わっている。)
目星をつけていたゲストハウスに行く途中にもう一軒、ジョニーのおすすめの宿があるというので、まずはそこを見に行くと、ネワール様式の美しい、歴史を感じさせる素晴らしいホテルに連れて行ってくれた。内装も申し分なく、レセプションの対応も心地いい。ただ、俺はきれいなホテルでゆったりと過ごすためにネパールに来たわけじゃないし(値段もUS60$と結構高い)、どうしても最初に気になったゲストハウスが見たかったので、まあここもいいんだけどねー、と言ってそのホテルを後にする。こんなところで気をつかっててもしょうがないので、
「ねえ、今のホテルに俺が泊まったらジョニーにはいくら入るの?」
と聞いてみた。
「え、いや、っていうか入んないよ。うん。入るケースもあるんだけどね、ハハ、今のは違うよ。」
「そうなんだ?いや、それが悪いとか嫌だって言ってるんじゃないから勘違いしないでね、当然のことだし。ただどういう仕組みなんだろって思っただけ」
なんて話をしながら、お目当てのゲストハウスに到着。ここもUS$50と高いんだけど、数々のエベレスト登頂チームや高名な冒険家の足跡を感じることができる場所だったので、一泊目はここで、と一晩の宿を取ることにした。ジョニーの目には明らかに落胆の色があったので、約束のタクシー代を多めに払い、部屋にバックパックを放り込んだ。(つづく)
(↑その後ふらりと晩飯を食いに入ったレストラン。食事中に停電になり、ロウソクが運ばれてきました。背後では電線がショートし、大きな音を立てて火花が地面に降るなか、それを見てレストラン中の人がワッハッハ!と笑っている。ああ、旅がはじまったんだなあと思いながら、美味しいダルバートをいただきました。)
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*1日目からこんな長くてまた今回も最終日まで書ききれずに終わるんじゃないかと、自分でも思っているけれど(笑)、今は書いてるのが楽しいので、楽しいうちは書いてみます。暇つぶしにどうぞ〜。:-)