エジプト旅行記? 10月29日 後編
(Friday, December 3, 2010 16:45) by TAKESHI HOSOMI
エジプト旅行記?〜?→2010/11/6〜11/30
エジプト旅行記?→2011/2/17
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「ちょ、ちょっと待ってよ。どこ行けって言うんだよ?」
確かにチケットに書いてある車両、そして座席に座ったはずだ。
「○△□¥%&#○!」
いいからはよどっかいけ!と言う手振りなのだけはなんとなく分かる。
その乗務員(だと思うんだけど)が自分の乗った号車に現れたのはほんの数分前。しばらく周りのエジプト人乗客となにやら言い合うと、車両後方の乗客が全員、しぶしぶと立ち上がって荷物をまとめはじめた。どうやらここにはもう乗っていられないみたいだ。えー?ちょっと待って。降ろされちゃったらいやだなあ。ようやくアジア人が一人乗っていることに気付いた乗務員は、どうやらそのまま立ち去るか、面倒をみる努力だけでもするべきか、迷っているようだった。そのそぶりから、彼は英語は話せまい、と悟った。
傍らの空席に広げたiPhoneやペーパーバックなどを急いで片付けながら立ち上がる。
「どうしたの?えーと、どうすればいいの?」
乗務員「¥%&¥%&○△□¥!」
まいったなあ。周りの人もだれも英語分かんないのか。ムムム。。(今俺はすごく困っているんだぜ!)
思いっきり困った顔をしていると、すでに移動しはじめていた乗客の一人が親切にも「スリー!スリー!」と教えてくれた。
「スリー?すりーって?3号車に行けばいいの?」
乗務員「○△□¥%&#○!」
乗客「すりー!」
「3号車だったらどこ座ってもいいの?」
乗客「すりー!」
乗務員「¥%&¥%&○△□¥!」
「うん。なんとなくわかったよ!ショクラン!」
理由はなんだったんだろうなあ。結局最後まで分からなかったが、そこそこ揺れる列車内を3号車まで移動すると、適当に空いてる席に腰を降ろした。まあいいや。いくらここに座ってるのがマズかったところで、走ってる列車から放り出されたりはしないだろう。
アスワンを走り出した頃の車窓。真ん中で旋回しているのは鳥。撮ってるときは気付かなかったけど、ラクダ写ってるね!
ナイル川沿いを走る車窓からは、いままでに行った事のあるどの国とも違う景色が見て取れた。焼きレンガで作られた簡素な住居。肥沃な土地に延々と生い茂る堂々とした草木。点々と見受けられる放し飼いの家畜。鶏。牛。はじけるような笑顔で走り回る裸足の子供たち。軒先で夕食の支度をする女性。洗濯物には砂漠の砂の色。ノーヘルでバイクを飛ばす少年。牛車の荷台で寄り添うおじいさんと孫娘。まばらな建物の一階に位置する小さな商店の店内にはすでに灯りがともり、両隣の家族がその日の仕事を終えようとしている。昔どこかで自分も知っていたような、胸をしめつけるような懐かしさに思わずむせる。そしてその全てを支えるナイルに、今日もまた夕陽が沈む。
ぼっけーと、その様子を眺めていた。傷だらけの窓ガラス越しでも十分その世界は美しく、薄暗い蛍光灯の車内や、じっとりと湿って重い座席シート、味気ない内装も、全てがいとおしく思えてくる。あんまり、いろいろきちんとしてない方がいいのかもなあ。ここには人の持つ愛すべき曖昧さがあふれている。
感傷にひたるというよりは、旅の真骨頂であるセンチメンタリズムを謳歌しているところへ、なにやら隣の座席の親子のやりとりが聞こえて来た。アラビア語だけど、やっぱり分かるときは分かる。
お父さん「彼と話したいんだろう?行って来たらいい。」
少年「うーん。。でもやっぱり恥ずかしい。」
お父さん「なーにを恥ずかしがっとるんだ。ほれ。」
そう行ってお父さんが背中をポンと押すと、少年はもじもじと俺の横に座った。アフメッド君だ。(エジプト人の5人に一人は、ムハンマドかアフメッドだ。これにマフムッド、サイード、ムスタファを加えると全体の4割を越える。)
アフメッド君。お父さんもめっちゃいい人。田舎の人はやっぱり暖かい。途中の駅で乗り込んで来たお菓子売りからポテチを買うと、お父さんが奢ってくれました。
アフメッド君もお父さんも英語は全く喋れないし、俺はアラビア語が喋れないのだけれど、どれくらいだろう、ルクソールまでの残り1時間半ほど、身振り手振りでいろんな話をしたよ。一緒にiPhoneのゲームで遊んだり、持ち物を見せ合ったりもした。ここのところずっと身に着けていた2重巻きの革製ブレスレットをアフメッド君の右腕に巻き、出会った記念にもらって欲しいと言うと、彼は道中それをじっと眺めては、何度か返そうとするのだが、その度にお父さんがいいからもらっておきなさい、と言ってくれるのだった。
列車がルクソールに近づくころ、お父さんが俺になにかをしきりに伝えようとしていた。身振り手振りのジェスチャーだが、なんとなくその内容も分かっていた。このままルクソールを越えて、彼の街まで一緒に行こう、我が家に君を客人として迎えよう、ってな感じだと思う。自分でもとても驚いたのだが、俺はお父さんの話が分からないような素振りで、ほんとうに大切に二人にお礼を言うと、ずっと来たかった街、ルクソール駅に降り立った。
ルクソール駅。なんかこの辺からピンボケ多いなあ。てきとーになって来てるんだと思う。
さあ、どんなもんだ悪名高きルクソールの客引きよ。あっという間に取り囲まれて変な宿へでも連れてかれるのかな。なんて警戒していたせいか、拍子抜けするほどあっさりとメインストリートを渡って、裏路地を歩いていた。うーん。やっぱりどんなところも自分で行かないと分かんないもんだなあ。そう思いながら、目を付けていた中級ホテルを目指し突き進むと、やっぱりカイロともアスワンとも全く違うんだなあと、華やかな街の光景に胸が躍った。タイト目な洋服を売る男性洋品店がかなり目につくことからも、アスワンのような朴訥とした雰囲気でも、カイロの混沌でもなく、ここには若干野蛮なナイトライフがあることが嗅ぎ取れた。
その危険な香りのする街、ルクソールで俺が最初にすることと言えば、もちろん、迷子になることだ。半泣きになりながら何度も同じ道を行ったり来たりしたあげく、歩き方の地図上のどこに自分がいるのかさえ分からなくなった後は、手当り次第に道を尋ね、ずいぶんと遠回りして、目指していた宿にたどり着いた。足いってえええ。今日こそは寝るぞー。ちょっとでも寝ないと、さっすがにぶっ倒れそうだ。そう思って個室のある中級ホテル(2000円ほど)にチェックインすると、何故かさっそくシャワーを浴びて、初登場グッチのTシャツを着て、屋上にあるというナイル川を見下ろせるプールとそしてバーを目指して意気揚々と階段を駆け上がっていった(実はこれがこのホテルの決め手だったのだ!)。ひょおおおおおう!飲んだらああアアア!!酔っぱらってプール飛び込んじゃったりして!!どうしよう!
ちーん。
がらーん。としたプールサイド。灯りは消え、バーも閉まっている。人っ子一人いやしない。ちーん。という音が頭の中でずっと鳴っている。手でちょっとだけちゃぷちゃぷやってみる。うん。あるね。プール。バーも。やってないけどね。うん。
ちーん音が消えないままうなだれてフロントへ行き、明日のプランを相談していると、なんと気球ツアーがあるじゃないか。こりゃ行くっしょ!気球一人前!たのんます!
気球ツアーは朝6時に出発し、9時には終わる。ハルガダ行きのバスは午後4時の出発だから、少なくともその間にハトシェプスト葬祭殿、王家の谷ぐらいは回れるだろう。バス停と宿はナイルの東側、イーストバンクにあり、王家の谷は対岸であるウェストバンクにある。けっこうタイトになるだろうから、プライベートドライバーの予約もしておこう。あのですね、こういう行程でまわってこれぐらいの時間に戻ってくるタクシーを雇いたいんだけど。
レセプション「そのルートだと、プライベートタクシーは、えーと、400ポンドですね。」
おっと聞き間違えた。
「あ、ごめん、いくらだって?」
レセプション「400ポンドです。」
「はっはっは。冗談言っちゃって。そんなにするわけないじゃん。」
レセプション「いや、ほんとに400ポンドなんです。」
「またまたー。いくら値段交渉って言ったってそりゃあないっしょ。」
レセプション「いや、ほんとに400ポンドなんですって(泣)。」
「え?まさかホントに?だって、2カ所遺跡回るだけだよ?しかも2時半には戻ってくるから、4時間ちょいの行程で400ポンド取るってこと?」
とてもとてもばつが悪そうに、レセプションの男性は声をひそめてこう言った。
レセプション「マネージャーに言ったんですけどね。どうしても400ポンドだって言うんです。」
「じゃあいいよ。タクシーぐらい自分で見つけるから。値段が高いとかっていうより、そんなのフェアじゃないもん。カイロで丸一日雇ったプライベートカーだって150ポンドだよ。」
レセプション「そうですよねえ。じゃあ、こっそり教えますけどね、気球乗り場はウェストバンクにあります。渡し船でウェストバンクに行き、気球ツアーが終わったら、イーストバンクには戻ってこないで、向こうの船着き場でタクシーを探すと時間の短縮になりますよ。」
「あ、それいいね。そうする!ありがとう!」
その後は夜の街へ繰り出すも、金曜(エジプトの休日)ということもあってほとんどのレストランがお休み。川沿いに観光客向けだけど雰囲気のいいレストランをようやく見つけて、ひさしぶりにゆっくりと、腹一杯食べることができた。何本目かのビールを飲みながら、アルケミストのページをめくり、今日まで考えていたことにある程度の決着をつけてみる。心にも俊敏さが必要だ、と思った。ぱっ、と戦闘態勢に入れるような。もしくは、何にも怯えないような。それなくして、普段のガードを下げる事は不可能だ。
写真中央のレストランでご飯。美味しかった!
いい気分で宿に戻る途中、いかにも陽気なエジプト人に声をかけられた。
男「ハロー!お前日本人か?」
「ああそうだよ。おやすみー。」
男「ちょっと待てよ!これからどうするんだ?」
「これから?宿に帰って寝るよ。」
歩き去ろうとすると、横に並んでついてくる。
男「面白いもの見せてやるからさ、俺のボートに来いよ!」
はた、と足を止めて、このめっちゃフレンドリーな笑顔の男の方へ向き直る。
「なんで俺がお前のボートに行くんだよ?何されるか分かんないのに。」
男「ヘーイ、マイフレンド?俺が悪人に見えるか?信用してくれよ?」
「まず最初に、俺はお前のフレンドじゃあない。それに、たった今出会ったお前をどうやって信用する?」
そう言って宿へ戻った。はっはっは。信じられない台詞だなあ!でも、いいかも知んない!(続く)
ルクソール神殿。オベリスクが見たいなあ。
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