エジプト旅行記? 10月26日 前編
(Saturday, November 6, 2010 21:04) by TAKESHI HOSOMI
ここ数日あんまり寝れてないこともあって、どっぷりと惰眠を貪っていた早朝、たぶん午前4時ごろ。イスラムの祈りが街中に響き渡る。モスクからの放送なのか、それとも街頭にくくりつけられたスピーカーから流されているのか、ついぞこの旅では明らかにならなかったが、ものすごい音量だ。まだ真っ暗な街中に響くイスラームの祈り。ぼやけた頭でそれを聞いていると、現実と夢の境界線が溶けてなくなっていく。まるで夢の中で目覚めたような、ずいぶんと不思議な感覚だった。遠くへ来たんだなあと思いながら、ふたたび眠りに落ちる。
iPhoneのデフォルトのアラームはまるでホワイトベースの緊急戦闘配備警報のようで、この部屋で鳴るにはちょっと問題があるような気がした。飛び起きて逃げ出す人がいるんじゃないかと思ったけど、みんなぐーすか寝てた。すっかり東京の自宅気分で起きたもんだから、えーと?あ、エジプトに着いたんだ。そっかそっか。今日はギザのピラミッドを観に行くんだった。と、急に旅に放り込まれる。
26日朝、ユースホステルのバルコニーから見たカイロの街。
ダッシュで朝食をかき込んで、午前8時半、ドライバーの到着とともに出発。
渋滞した市内を40分ほどで抜けて郊外へ向かうタクシーが、フリーウェイを走行中にふと、無言で減速して路肩に寄せていく。おや?さては車ぶっ壊れたな。。ん?でもとろとろと走ってるな。一体、と思って右を向いたその時、視界に飛び込んできたのはカイロの高層建築の向こうに、砂塵に霞んではいるがはっきりと浮かぶギザの3大ピラミッド。「でっけえええええええ!あんなにでっけえの!?」思わず大声が出た。オヤジ、やるじゃねえか。無言で減速か。渋い。渋すぎる。
ていう思いは帰る頃には「ああ、喋んのめんどくさかったんだな」っていう確信に変わるのだが。
ピラミッドエリアの正面入り口、チケット売り場の前でタクシーを降りる。「1時にピザハットの前な」と言い残し走り去るエジプト版ジャンレノ。視界にはずっとピラミッドが見えている。なんじゃああこりゃああ。あの、チケットください。はい、入場チケットす。あ、こっから入るのね。うんうん。改札を抜けて、と。うんうん。あれがクフ王のピラミッドね。でっけえなあー。え?いやいや、いいよ俺歩くの好きだから。らくだはいい。別に。うん。馬もいいや。
「てか、あんた誰?」
いつの間にか俺の専属ガイドぶったエジプト人に向かって言ってみた。
専属ガイド「いや(汗)、俺はここのガイドなんだ。旅行者が快適にピラミッドを観れて、キャメルライダーやホースライダーや物売りに騙されたり、危ない目にあうのを防ぐのが仕事さ。遺跡もしっかり解説してやるよ。さあ、行こうぜフレンド。」
「ほほう。で、1日の終わりにいくら取られるの?」
専属ガイド「(ちょっと面食らって)う、そ、そうだなあ。それはけっこう、まちまちっていうか、お前次第ってとこかな。」
「いらないや。歩いていくね。」
専属ガイド「ちょ、ちょっと待て!そうだなあ。えーと、ヨーロッパ人なんかだと100ドルぐらいくれたりもするし、えーと、200ポンドとかのときもあるし。。」
「じゃあねー。」
歩き去る背中には、一人では危険だとか、俺は日本人が好きなのに、とか聞こえてくるが、タハリール広場で俺に「ヘーイ、日本人か?日本人ってのはほんとナンバーワンだよな」と言って話しかけて来た男が、2分後には別のフランス人に「フランスはほんとナンバーワンだ。俺はフランス人が一番好きだ」と言ってるのを聞いていたので、お仕事お疲れ様です!という思いでいっぱいのまま、一番手前、愛しのスフィンクスに向かって歩き続けた。
これがメインゲート。左の小屋がチケット売り場と改札。俺の立ってる真後ろに、ピザハットとKFCがある。
ちなみに、エジプトの人たちはほんとに正直でストレート。めっちゃ人なつこくて優しい。俺は大好きになったよ。旅行者からお金を稼ぐのは単にこの人たちの仕事。それさえ理解してれば腹立つことなんてほどんどない。普通の人たちからたくさんの、無償の優しさを受け取ったし、旅行者相手のビジネスをしてるひとも、いったんお金のことから離れると本当にいい人が多い。
メインゲートを抜けると待ち受けるのは、ギザのピラミッド群。
正面から見たピラミッドコンプレックス。
スフィンクス、クフ王、カフラー王、メンカウラー王のピラミッド。外観を見てるだけでもうため息が出る。本物に出会ったときに生まれる、感動がある。だいたい外からは見て回ったので、今度は中に入ってみよう。クフ王のピラミッド内部へ入るには、午前8時のチケット発売前に並ばなければいけない。これには間に合わなかったので、終日入ることができるカフラー王のピラミッドに入ろう!と思い長い長い列に並ぶ。30分ほどでチケットゲートに辿り着き、入り口の石の上にどっかりと座り込んでいるもぎりのおっちゃんに聞いてみる。
「チケットてここで買えんの?」
もぎり「ここにはない。メインエントランスまで戻って買え。」
とのこと。うわちゃー。まじっすか。そんな気もしてたんだけど、さっき誰かここで現金数えてたから、買えるのかと思ったよー。しょうがねえ、とメインゲートまでひーこら戻る。朝一で専属ガイドと別れた場所だ。ゲートの人に後ろから話しかける。
「2ndピラミッドの中に入るチケット売ってくれませんか?」
改札の人「それはピラミッドの横で売ってるよ!」
んんん?これはどいつが面倒くさがってやがるんだ?
「え、入り口では売ってなかったよ?」と言うと
改札の人「いや、ピラミッドの横だ!横で売ってる!」
と言い張るので、ああ、もしかしたらあのとき周りをもっとよく見ればチケット売り場あったのかなと思い、しかたなく今来た道をまたカフラー王のピラミッドまで戻る。もう3回目だぜここ歩くの。(今思えば、ここで徹底的にごねてチケットを確保するのが正解なんだけど、このときはまだエジプトのやり方がよく分かってなかった。)
「ねえ、チケットどこで売ってんのよ」
さっきのチケットもぎりじいさんに聞いてみる。
もぎり「外。外に売っている。」
と今度はメインゲートではない方を指さしているので、そっちの方へ今度は行ってみる。こうなったら俺は絶対にカフラー王のピラミッドの中へ入ってやるからな。いいか、何があろうとだ。なんだかいらん炎が心の中に立ち上るのを覚える。
クフ王のピラミッド。とにかくでけえ!
カラシニコフで武装した警官数人に道を訊ねながら歩いていると、どうやらクフ王のピラミッドのさらに向こう側に、チケット売り場があるらしい。しこたま歩いて見えて来たのは、正面よりだいぶ小ぶりな駐車場と、改札&チケット売り場。なんだよ。結局入場時に買っとかないとだめだったんじゃないか。メインゲートの奴は俺を一回外に出すのがめんどくさかったんだな。よし、あの警備員と交渉してみよう。
「あのさ、ピラミッドのチケットを買わないで入っちゃったんだけどさ、やっぱり中見たくなっちゃったんだ。外へ出てチケット買って来ていい?」
「ああ、いいよいいよ。」
「言っとくけどもっかいエントランスチケットは買わないよ。それでも入れてくれる?」
「大丈夫大丈夫。俺が証人になってやるから。」
その言葉を受けて、ゲートの外へ出てカフラーピラミッドのチケットを購入。やっっっっと買えたー(泣)!なんて喜びながらゲートを再度通過しようとすると、目の前によく分からない地元の連中が立ちはだかった。
ジモティ「お前、入場チケットを見せろ!」
おお、意外と荒いなここは。こりゃあ立ち止まんない方がいいぞと思って強行突破しようとすると、二人組の男が両側から立ちはだかり、胸の辺りを平手で押しとどめて来た。
ジモティ「止まれ!おい!いいからまず止まれ!」
けっこうな剣幕に、思わず立ち止まってしまった。視界のはしっこにはすぐそこまで俺を迎えて来ていたさっきの警備員が、スタスタと戻って行くのが見える。
「なんだよ。俺はあのセキュリティと話をつけてあるぜ。」
そう言って、戻っていったセキュリティを指差すと、やつはまるでそしらぬ顔をして、若干ばつが悪そうにだが、そっぽを向いている。まあな。そうだろうな。
ジモティ「そんなわけないだろう。俺はここのキャプテンだ。チケットを見せろ」
「キャプテンってなんだよ。エントランスチケットはちゃんと持ってるぜ。絶対もう一枚は買わないからな。」
ジモティ「見せてみろ。」
しぶしぶチケットを手渡すと、ジモティは胸のポケットからメモ帳を取り出し、そこに書いてあるアラビア数字と、俺のチケット番号を照合するようなフリをしている。くっそ、こんな茶番に付き合ってる暇はねえ。そう思ってそいつの手から乱暴にチケットを取り返すと、
「いいか、これは俺のチケットだ。お前ら盗む気か?もう一度言うが、俺はあのセキュリティと話をつけてから出て来てる。今からここを通るが、絶対に俺の体に触れるなよ。いいか?通るからな。」
そう言ってすたすた歩くと、無事にゲートを通過することができた。いやー、ほんとにお仕事お疲れさまだよまったく!
ピラミッドサイトから振り返ったカイロの街。
その後しばらくは血圧あがったままだったけど、カフラー王のピラミッド内部へとつづく列に再び並んだ頃には、すっかりといい旅気分に戻っていた。最初みたときよりずいぶんと短くなっていたその列は5分ほどで自分の番になり、腰を落として背中を90度近く曲げないと通れない階段が下へと続いている。今そこから戻って来たばかりの推定アメリカ人がようやく伸ばせた腰をとんとんと叩きながら、
「まったく、日本人にでもならなきゃこんな狭いとこ通れんぜ!」
なんて言うもんだから
「なんだって(笑)?」と言うと
「おお!お前日本人か!わっはっは!」と
その辺にいた人がみんな笑ってた。いいなあ。こういうの。
V字型の階段を降りている時も、登っている時も、狭い回廊の中に響き渡るのは戻ってくる人たちの愚痴だ。
「拷問だ!これは拷問だ!」
「短い!10メートルもないなんて!」
「○○!そこにいるかい?」
「他にどこにいけるって言うのよ!」
「拷問だ!これは全く拷問だ!」
けっこう苦労して入ったんだけどなあ(笑)、なんて思いながら進むと、実際その奥の回廊はとても短くて、目を引くようなものはなにもなかったけど、俺には、今ピラミッドの内部にいるんだと思うだけでとてもとても満足だった。(続く)
子供たち。カメラを向けるとすごい嬉しそうにする。でもやっぱりカイロっ子。服装も表情も都会的だ。
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